長期ビジョン
戦略解説

投資効率を重視した財務戦略で、
「かがくで、かがやく」未来を目指します。
(CSR推進統括兼内部統制監査室、秘書室、総務部、経理部、RC推進部担当兼貿易管理室長) 町井 清貴
投資効率を重視した財務戦略へ
長期ビジョン「かがくで、かがやく。2030」策定にあたり議論や検討を重ねる中で、前中期経営計画だけでなく過去の経営戦略とその成果を振り返り、あらためて当社が課題とすべき経営指標は何かについて考えてまいりました。これまでは売上と損益中心のP/L指向の中での施策を展開してきましたが、企業価値向上について原点に立ち返った時に、「投資を行い収益を得る」、つまりROI(投資効率)の考えを長期ビジョンを描くうえでの基本戦略とすべきではないか、ROIを基軸とする施策の遂行によって今の経済社会、そして投資家が求めるROE(自己資本利益率)目線にかなう経営計画になるのではないかとの結論に至りました。長期ビジョンのスコープである10年を3分割し、それぞれにこのROIの向上を基調とする中期の経営計画を立案・実行してまいります。当然ながら予想できない状況や事態も起きるでしょうが、試行錯誤の中で改善を進め、10年後の最終目標であるROS(営業利益率)10%以上、ROA(総資産営業利益率) 7%以上、そしてROE 8%以上を目指す計画です。当社の株主構成を見ても外国人株主の比率が増加してきており、その要求に応えていく必要もあります。
まず、ROI指向を従業員全体の意識として展開していくために、ROAの考え方を重点に置きました。つまり、投資による資産が適切に利益を生んでいるか、効率的な資産活用により収益を向上させているか、との観点で事業運営を改善していくというものです。これが結果として、ROEの改善につながってきます。投資効率、すなわち資産効率の観点から事業ポートフォリオ、製品ポートフォリオを見直し、業務効率を改善していく中でバランスシートがシェイプアップされ、ROSが高まり、ROAが向上する。そして、財務の健全性に配慮しながら、成長投資と株主還元のバランスを重視した資本政策を積極的に実施していくことでROEを高め、「かがくで、かがやく。StageⅠ」でROE 5%を、長期ビジョンでの10年後には、ROE 8%を達成する計画です。資産効率を高めて効率のよい企業運営をすることで高効率な事業構造への転換を進め、企業価値を高めていくという考えです。
長期ビジョンの基盤を固める「Stage Ⅰ」
長期ビジョンにおける2020~2022年度までの最初の中期経営計画となる「かがくで、かがやく。StageⅠ」は、長期ビジョン達成のためのファーストステップとして企業価値向上に向けた基盤固めを遂行します。
StageⅠでは、まず不採算事業の整理を進めるとともに、高効率な事業構造への転換に向けた体制整備を実施してまいります。
市場ニーズに応じて開発したものの、今後の需要の見通しや設備の維持更新に必要な投資の点で、合理化を図っても中長期的な成長は厳しいと思われる製品や事業があります。StageⅠではこれらの整理を決行し、資産効率化に向け大きく舵を切ります。2020年8月には、カセイカリ事業について、生産中止も含めた抜本的な事業構造改革を実施することを発表しました。1929年に二本木工場(新潟県上越市)において生産を開始したカセイカリ事業は、周辺事業を強化しながら90年以上にわたって製品を供給してきましたが、長期ビジョンの基本戦略である高効率な事業構造への変革の観点から経営判断しました。
このような不採算事業の整理と並行して、このStageⅠでは、高収益化に向け300億円規模の成長投資を実行します。その中心となるのが、二本木工場での医薬品添加剤「NISSO HPC」の増産設備と新規殺菌剤「ミギワ」の量産設備への投資です。これに加えて通常の維持更新投資もあるので、このStageⅠの設備投資額は相当大きなものとなります。これらは、StageⅠでの主題である高効率な事業構造転換への投資ということです。
「Stage Ⅰ」での資本政策は積極的な成長投資と株主還元
前述したように、このStageⅠでは、成長投資に300億円を計画しており、前中期経営計画の100億円から大幅な増額となりますが、戦略を着実に実行して長期ビジョンを達成するためにも、必要な投資であると判断しています。また、投資効率の視点から政策保有株式を含む資産の再評価を行い、バランスシートを適切にコントロールしていく計画です。そして、このStageⅠでは、積極的な株主還元策を講じてまいります。株主還元方針について、従来は自己株式取得を含めた総還元性向で示していましたが、このStageⅠでは配当性向を40%としながら、当社としては初めて配当の下限値設定を行いました。StageⅠの期間は収益の結果にかかわらず、年間配当金80円を下限値として実施するというものです。そして、自己株式取得については、2020年2月から開始している50億円の自己株式取得が進行中ですが、この後も機動的に実施していく計画です。
前中期経営計画からROIC(投下資本利益率)指標のツリー分解による課題抽出と対策実行の取り組みを進めており、各部門が収益性・効率性の継続的な改善を進めることにより、ROEの向上につなげていく考えです。
数値目標
指標 | 数値目標(2023年3月期) | |
---|---|---|
当期純利益 | 70億円 | (2020年3月期 67.6億円) |
ROE | 5% | (2020年3月期 4.8%) |
設備投資 | 新規事業および増産の設備投資に、300億円を投資する。 | |
株主還元 | 配当性向40%。(ただし、1株当たり年間配当金80円を下限とする) |
※各部門が収益性・効率性の継続的な改善を図ることでROIC(投下資本利益率)を改善し、ROEを向上させます
今回 の 長期 ビジョン「かがくで、かがやく。2030」のファーストステップとなる中期経営計画「かがくで、かがやく。StageⅠ」は、これまでの経営戦略とは一線を画すものであり、企業としての高い志と決意を示したものです。このStageⅠの資本政策では従来にない株主還元策も取り入れました。まずは3年後の目標達成に向け、全役職員が志を一つにして、気持ちを引き締め、覚悟を持って取り組んでまいります。
長期ビジョン
「かがくで、かがやく。2030」
2020年2月に、日本曹達グループは創立100周年を迎えました。次の100年においても持続的成長を実現する化学メーカーとして、企業価値の向上と社会価値の向上の両立を実現する経営を実践していきます。
そして、2020年4月から、日本曹達グループ長期ビジョン「かがくで、かがやく。2030」がスタートしました。この長期ビジョンにおいては、「高効率な事業構造に変革してゆく。〜利益効率を二倍以上に〜」を基本戦略として、これまでのPL経営からROI経営へと明確に舵を切りました。長期ビジョンStageⅠ〜Ⅲにおける段階的なステージアップを目指し、構造改革と高付加価値事業の拡大により、徹底した経営効率化を推し進めます。また、既存事業における安定的なキャッシュ創出と、成長投資による新たな価値創造により、事業環境の変化に強く、安定した収益を生み出す事業ポートフォリオへの変革を力強く実行していきます。
日本曹達グループは、企業価値向上のマテリアリティ(重要課題)として、アグリカルチャー、ヘルスケア、環境、ICTの4つの分野を特定し、2020年代の顧客と社会環境に求められる製品・サービスを提供するとともに、「企業価値を高めるCSR」「企業価値を守るCSR」によるESG経営に取り組みます。
長期ビジョンのStageⅠでは、2020年度を初年度とする中期経営計画「かがくで、かがやく。StageⅠ」に注力します。キャッシュ・フロー創出力を高める製品・事業への積極的な投資を実行するとともに、投資効率が劣後する製品・事業の整理を進めて適切なバランスシートを構築し、ROE5%の達成を目指します。

10年後にありたい姿
新たな価値を化学の力で創造し、「社会への貢献」を通じ「企業価値の向上」を実現する。
基本戦略
ROIを重視した成長投資と徹底した構造改革により『高効率な事業構造に変革してゆく。~利益効率を二倍以上に~』
資本政策
財務の健全性に配慮しながら、成長投資と株主還元のバランスを重視した政策を積極的に実施する。
ESG経営
2020年代の顧客と社会環境に求められる製品・サービスを通じ、社会に貢献する。
経営指標(KPI)
企業価値の向上に向けて、投資効率を重視した経営を目指す。
ROS (営業利益率) |
10%以上(2020/35.6%) |
---|---|
ROA (営業利益÷総資産) |
7%以上(2020/33.8%)→ 利益率・総資産回転率の改善 |
ROE (当期純利益÷自己資本) |
8%以上(2020/3 4.8%)→ 適切なB/Sコントロール |
日本曹達グループは、ミッションと持続的成長の実現に向けて、企業価値の向上と社会価値の向上の両立を実現する経営を実践します。

メガトレンドと
企業価値向上の
マテリアリティ
21世紀は「環境の世紀」といわれており、世界では地球温暖化や人口増加、資源枯渇などの問題に直面しています。一方、日本では少子高齢化や社会保障費の増加といった問題が社会システムに大きな影響を及ぼすことが懸念されます。こうした状況に対し、日本曹達グループは化学とその関連サービスを通じて、一人ひとりが安心して暮らすことができる持続可能な社会づくりに貢献していきます。
日本曹達のミッション
新たな価値を化学の力で創造し、
「社会への貢献」を通じ
「企業価値の向上」を実現する。
日本曹達は、1920年の創立以来、「化学」を通じて新たな価値を世の中に提供し、社会の発展に貢献してまいりました。当社グループは、さまざまな化学製品・サービスをアグリカルチャー、ヘルスケア、環境、ICT分野に届けることで、人々の暮らしを支えてまいります。
メガトレンド
-
人口増加地球温暖化
食糧・飼料の増産、生産の効率化
農作物病害虫の発生増加 -
生活水準の向上、社会保障費問題
医薬品需要の増加・QOLの向上
健康志向・予防医学の意識向上 -
持続可能な社会の実現
環境負荷の低減
資源循環型社会の構築 -
情報通信技術の進化
スマートデバイスの普及
技術革新ニーズの高まり
企業価値向上のマテリアリティ
(日本曹達グループの価値創造)
アグリカルチャー 食糧確保と持続可能な農業へ
- より高度化する安全性要求に対応した新農薬の創出と、効力の高い殺菌剤・殺虫剤・ 続的成長の実現を目指します。 除草剤の供給で、世界の食糧供給に貢献しています。
- 農業生産の効率化を見据え、情報通信技術(ICT)などを活用して、防除作業の省力化と高品質な農作物の生産をサポートしています。
ヘルスケア 健康をすべての人へ
- 当社グループが提供するセルロース誘導体は、薬を飲みやすくするための医薬品錠剤のバインダーとして、国内外で幅広く使用されています。
- 食品加工用として、サプリメントを手軽に摂取する技術を提供しています。
- 製品の高性能化と製剤技術支援サービスで、人々の健康に貢献しています。
環境 健全な資源循環の実現へ
- 水処理技術、資源リサイクル技術、有害物質吸着・除去技術を活用し、さまざまな環境ソリューションを展開しています。
- これまでの知識と経験を活かし、安全でエコロジーな社会の実現に貢献しています
ICT 化学素材の機能性を情報電子機器へ
- これまで培ってきた精密重合技術・有機合成技術を活かして、5G通信基地局の通信機器材料向け・半導体フォトレジスト向け高機能樹脂を提供しています。
- 技術革新のニーズに応えるべく、情報化社会の発展を支え、人や環境にやさしい新規素材の開発に注力しています。
基本戦略
企業価値向上
ROIを重視した成長投資と徹底した構造改革により
「高効率な事業構造に変革してゆく。~利益効率を二倍以上に~」
日本曹達グループは、独自の技術力に裏づけられた化学のニッチ領域の事業を複数生み出してきました。その結果、企業価値向上の実現を目指す化学メーカーとして、さまざまなリスクに耐えうる収益基盤を実現しています。長期ビジョンでは、これまで培った強みを活かし、さらなる企業価値向上を目指した「コスト競争力強化・効率化」「海外事業の拡大」「新製品の開発促進と新規事業への進出」の3つを基本戦略の主要課題としています。Stage Ⅰでは「長期ビジョン達成のためのファーストステップ」と位置づけ、財務の健全性に配慮しながら、成長投資と株主還元のバランスを重視した資本政策を遂行するとともに、バランスシートの適切なコントロールにより資産効率の向上を図ります。
主要課題 | 実施施策 |
---|---|
コスト競争力強化・効率化 |
|
海外事業の拡大 |
|
新製品の開発促進と新規事業への進出 |
|
ESG経営
社会価値向上
2020年代の顧客と社会環境に求められる製品・サービスを通じ、社会に貢献する。
日本曹達グループは、2020年代の顧客と社会環境に求められる製品・サービスを通じ、社会に貢献する化学メーカーとして持続的成長を目指していきます。長期ビジョンにおける社会価値向上については、「企業価値を守るCSR」では、環境への取り組み、社会活動、ガバナンスの3つの側面から、社会全体のステークホルダーへのより深い価値の提供に取り組みます。
「企業価値を高めるCSR」ではアグリカルチャー、ヘルスケア、環境、ICTの4つの分野をマテリアリティに特定し、新たな価値の提供で持続可能な社会づくりに貢献します。企業価値向上と社会価値向上の両立を実現する経営により、ミッションと持続的成長の実現を目指します。
企業価値を守るCSR
主要課題 | 実施施策 |
---|---|
環境への取り組み |
|
社会活動 |
|
ガバナンス |
|
企業価値を高めるCSR
サステナブルな社会の実現に向け、4つのマテリアリティへの取り組みに注力する。
-
アグリカルチャー
食糧確保と
持続可能な農業へ -
ヘルスケア
健康を
すべての人へ -
環境
健全な
資源循環の実現へ -
ICT
化学素材の機能性を
情報電子機器へ