ステークホルダーダイアログ
日本曹達グループの
マテリアリティから見る「現在・未来」
(2018年12月)
日本曹達グループのマテリアリティから見る「現在・未来」
日本曹達グループのCSRについての考え方、マテリアリティ、リスクマネジメントについて有識者とのステークホルダーダイアログを2018年12月12日に開催しました。
「企業価値を高めるCSR」「企業価値を守るCSR」「社会活動」が企業価値向上にどのような意義をもつのか、有識者とのESGの観点を取り入れたインタビューとディスカッションにより率直な意見交換が行われました。
出席者
外部有識者
日本曹達
※出席者の肩書、役職は、2018年12月時点のものです。
※本文中敬称略
日本曹達グループのあゆみ
(RC、CSR)
- 1998年 8月
- RC活動宣言
- 2012年 4月
- CSR活動宣言
- 2014年 4月
- 国内グループ会社8社にCSR活動導入
- 2015年11月
- 第1回ステークホルダーダイアログ開催
マテリアリティを特定し取り組みを開始 - 2016年12月
- 第2回ステークホルダーダイアログ開催
- 2017年12月
- 第3回ステークホルダーダイアログ開催
- 2018年12月
- 第4回ステークホルダーダイアログ開催
「企業価値を高めるCSRマテリアリティ」
と関連する事業活動
農業分野 | 持続可能な農業への挑戦:スマート農業、ドローン、種子処理、微生物農薬 |
---|---|
医療分野 | 医薬による健康ライフ:錠剤の小型化による飲みやすさ改善、持続効果延長、3Dプリンタによる錠剤化 |
情報分野 | 高機能材料の可能性:環境に配慮した高機能材料、次世代通信対応の銅張積層板、フォトレジスト微細加工 |
環境分野 | 健全な資源循環の実現:災害適用スケットイレ、トイレゲル |
テーマ① ビジネスモデルの
持続性に重要な影響を与える
環境課題・社会課題
環境課題・社会課題は長期的な視点で事業活動に
どのような影響を与えるか。
- 労働人口減少、少子高齢化、地球規模の人口爆発など、グローバルな視点で社会課題を考えていく。
- これまでやってきた農薬による食糧確保(安定的な収量確保)への貢献だけではなく、農業全体のバリューチェーンを見据えた研究開発を推進し、既存事業の強みを生かしたイノベーションにも取り組んでいきたい。省力化や使う方にとっての安全な農薬への期待は高いと感じている。
- 例えば、種子にコーティングする新たな種子処理技術は、農家の方々の省力化はもちろん、農薬の環境負荷低減にも大きく貢献できると考えている。グローバル展開を目指し、他社とのパートナーシップも検討していく。
環境課題や社会課題が経営に直接影響を与える時代を迎え、事業のパラダイムシフトが各業界、各セクターで起き始めている。そのような経営環境において、企業が自ら重要課題を見極め、これから10年、20年、30年先の時間軸の変化に応じて、長期的な目線でレジリエントな戦略を実行していくことが重要である。
テーマ②ゲームチェンジの可能性とトランスフォーメーション
未来のゲームチェンジを想定し、
どのように事業活動が変化していくのか。
- 気候変動の影響により農業の地域特性はこれから大きく変化していく。農薬の種類も変わる可能性があり、新たなビジネスチャンスとなり得る。環境課題も考慮した上で、 2015年、北海道の更別村に更別試験地をつくり、地域気候の影響や農薬の新たな可能性についての研究を開始している。
- 化学品の情報分野と医療分野については、市場の需要にレジリエントに対応する課題解決型の素材供給メーカーであり続けていく。例えば、医薬品添加剤の有効成分を機能させる技術において世界のリーディングカンパニーである。この独自技術に社会変化をかけ算していくことで新たなマーケットを創出していく。
AIやIoTの進化、地球環境問題、人口問題の課題解決を持続的成長への戦略として取り組む動きが進んでいる。自動車業界では既に大きな変化がみられるが、今後あらゆる市場においても、チャネル変化、新規プレイヤーの参入等をきっかけに予測できない変化=ゲームチェンジが起きると考えている。投資家もそういったゲームチェンジを企業がどのように想定し変化しようとしているのかに注目している。
テーマ③企業風土・文化の継承と発展、企業倫理の充実
社会の持続可能性にどのように貢献してきたか。
なぜ実現できるのか。
- 長年培われてきた安全品質を最優先する企業文化があるからこそ、化学の力で次世代の夢を叶える製品開発と持続的成長が実現できる。
- 企業も従業員も同じ市民であり、世の中に受け入れて頂くことが企業の持続可能性の根幹である。そのためにもコンプライアンス重視の取り組みを実行してきた。
- 更なる企業倫理の充実を目指し、未来からのバックキャスティング手法で考え、ガバナンスが時代の変化にも十二分に機能する魂のこもった在り方を検討していく。
企業が持続的成長を実現していくには、ガバナンスの在り方にも変化が必要になっている。体制構築だけではなく機能面を重視し、その実効性について投資家は注目している。企業側も戦略に関してより大胆で素早い決断が必要になってくる。また、ガバナンス強化には企業倫理との整合性と、社内浸透の取り組みも重要である。
「日本曹達グループは、企業倫理がすべての事業活動の根底に流れている。
今後長期の社会変化をどのように捉え、持続可能な社会の実現にどう動いていくのか注目したい。」
- 環境課題・社会課題が与える事業活動への影響を機会とリスクの観点から捉え、体制構築にとどまらず機能する組織づくりを志向している。
- 農業化学品は大きな変化に向けて進んでいる。社会課題による将来のゲームチェンジも見据え、省力化や効率化を農薬メーカーらしいトランスフォーメーションに取り組んでいる。
- 安全性や品質を最優先する日曹マンの企業文化は、持続的成長の源泉となっている。企業倫理を海外グループ会社含め全社に浸透させている。
- マテリアリティとリスクマネジメントを骨太に推進するため、ガバナンスの実効性を高める取り組みが丁寧に行われている。
中長期の成長を見据えた
化学会社のマテリアリティ
(2017年12月)
社会にとっての良い影響をより大きくする日本曹達グループの「企業価値を高めるCSR」をテーマに、持続可能な社会づくりに役立つ製品を提供する化学会社としてのマテリアリティについて、外部有識者の皆様との対話を行いました。
出席者
外部有識者
日本曹達
※ 出席者の肩書、役職は、2018年12月時点のものです。
※ 本文中敬称略
対話機会の中でCSR活動を高めていく
昨年度のステークホルダーダイアログでは、農業、環境、情報の3分野に関して、日本曹達の「企業価値を高めるCSR」の社会課題をいかにキャッチアップし事業に転換していくのかという視点からアドバイスを頂きました。頂いたご意見は各事業部門で共有し、新たな事業展開へのヒントとして前向きな議論を進めているところです。
2018年度からは新たに医療分野におけるマテリアリティを特定するとともに、製品を通じて社会課題に貢献する日本曹達グループの活動領域を3分野から4分野に拡大し、かつSDGs(持続可能な開発目標)への対応を昨年の4つから2018年度は9つへ拡大しています。
2017年度についても、CSR活動のPDCAをスパイラルアップさせていくためのエンゲージメントを目的に、有識者の皆様とのダイアログを開催させて頂きました。
4分野のマテリアリティ取り組み状況
農業分野
日本曹達: 農業分野では、持続可能な農業への貢献という観点で、生物農薬の研究開発をアウトサイドインの視点とインサイドアウトの視点の両面から行っています。また、高温耐性や乾燥耐性の増大を目的とした、植物成長調整剤の研究など、気候条件に左右されにくく、効率的な農業生産を可能にする新薬の開発も目指しています。
医療分野
日本曹達: 医療分野では、国内の医薬品約57%に使って頂いているNISSO-HPCについて、飲みやすい薬をお届けするという観点から2018年度に新たなマテリアリティを特定しました。日本曹達のNISSO-HPCは錠剤の小型化の実現や効能を長時間維持させる効果がありますが、お子様から高齢者の方まで年代を問わず薬を飲むことへの負担感を減らすことを想定し、健康と福祉をすべての人にお届けできる社会づくりに貢献していきたいと考えています。
環境分野
日本曹達:
環境分野では、2017年11月、松枯れ防止剤・グリーンガードを含むゾエティス・ジャパンのプラントヘルス事業の譲渡・譲受契約の締結に至りました。樹幹注入の処理にて松枯れを防止するグリーンガードについて検討し、環境負荷低減が可能な製品であるという観点から、新たなマテリアリティとして緑化・景観保全への貢献を追加しました。
また、昨年のダイアログでご指摘頂いた、日本曹達の災害対策用トイレ技術の適用範囲を広げられないかという観点から、高齢化社会に向けた介護用トイレの開発も進めており、今後の上市を目指しています。
情報分野
日本曹達:
情報分野では、これまで培った製造技術を使って環境に配慮した化学メーカーとして労働安全衛生法、化学物質の審査及び製造の規制に関する法律(化審法)の登録など法令遵守への対応とともに、今後のデジタルデバイスの革新やユーザー要望の多様化などの迅速な対応が求められる時代において、どのように社会課題解決に貢献する製品を創出できるかについての議論も進めています。
また、昨年のダイアログでご指摘頂いた化学素材とユニバーサルデザインの関わりについても、次世代の子供たちに伝える仕掛けというキーワードで、ゆくゆくは子どもたちの声をソリューション開発につなげる試みについても将来的に検討してみたいと思っています。
関:
経団連の企業行動憲章の改定が2017年11月にありましたが、そこで強く打ち出しているのは、Society5.0 for SDGsの考え方です。これは、人間中心の超スマート社会の実現を通じてSDGsの達成に貢献していこうという考え方です。日本の産業界からどんどんソリューションを提供することが改定の重点テーマになっています。そういう意味でも、いずれのマテリアリティも将来の可能性があるテーマだと思いますので、引き続き取り組んで頂ければと思います。
SDGsについては、非常に謙虚に書いて頂いていますが、今出来ていなければ今後の目標に入れられないということはなく、今後、2030年に向けてやっていきますという意思表示でもいいと思いますし、もう少し夢を語って頂いてもいいと思います。
また、化学会社ならではのトランスフォーメーションについても、人の暮らしが一変する、それこそ世の中がものすごく効率的になる、あるいはすべての人に使いやすい端末が実現できるなど、そこに化学の力がどのように関係していくのかという視座を若い世代に伝えられるとよいのではと感じました。
中長期の成長を見据えた
マテリアリティとは
日本曹達:
化学会社への期待として、これまでのように製品だけではなく、機能の供給への期待を頂くようになりました。お客様のニーズにお応えすることはもちろんですが、最近では、お客様だけではなく、実際に使用される方々の考え方やニーズがわからなければ、なかなか新しいものは生み出せないという感覚を持っています。
例えば、これまで展開していなかったアスレチックジムの展示会にハイクロンやトイレの尿石防止剤等を展示する試みを始めるなど、そういった場で、実際に使われる方々との対話を通して多くの気づきを頂いています。ハイクロンの販売についても、展示会にご来場いただいた方々から、製品単体では使いにくい場面があるなどのご意見を伺うことができまして、ハイクロンの殺菌剤システムを自動化して、お客様にとって使いやすく手を汚さずに使える新製品をつくりご提供できるようになりました。
事業の中長期的成長のプロセスでは、事業機会の創出を担う製品づくりが不可欠であり、お客様の課題や社会からの要請を、自社の技術や製品づくりを通して総合的にご提案していくことで、より一層社会からの期待にお応えできる製品のご提供につながると実感しています。
山崎:
日本曹達グループの「企業価値を高めるCSR」は、言うまでもなく中長期の成長を見据えたマテリアリティであり、経営にコミットされていることが前提となるでしょう。「企業価値を守るCSR」と「社会活動」については、レスポンシブル・ケア、ISO26000を組み込んだフレームワークのため、まだ交通整理の途中かも知れませんが、これらについても、中長期の成長に向けて気づいていないダウンサイドリスクはないのか検証していくとよいと思います。
また、「次世代を見据えた取り組み」は大変重要なテーマといえますが、例えば安全性、人材に関わるES課題が御社の中長期の成長に与える影響についても、非財務情報の視点からあらためてご検討いただけると、今後取り組むべき課題が抽出されてくると思います。
10年20年30年という大きな流れの中で成長の道筋を描いていくことで、日本曹達グループの価値創造ストーリーが見えてくると思いますが、その過程において、持続可能な発展への期待が高まる社会的背景を踏まえながら、今後、事業機会の創出と中長期の成長を支えることにつながる守りのCSRという視点でマテリアリティを検証されていかれるとよいのではないでしょうか。
関:
まさにその通りだと思います。例えば、気候関連情報は、これまでは非財務情報と言われてきましたが、明らかに財務情報として捉えられるようになってきたと思います。TCFD※1のレポートでは、長期的な「脱炭素社会」に向けて規制も市場も大きく変わっていくなかで、御社はどういう戦略を描いていくかという未来志向の情報開示をしていく必要を訴えています。TCFDではシナリオ分析という表現でいわれていますが、長期的視点でのリスクと機会の開示がより重要になってきます。
SDGsは、社会貢献の要素もゼロではないと思いますが、基本的には巨大なビジネス・オポチュニティなのだと思います。要するに、満たされていないニーズを満たす。そこにビジネスソリューションを提供するのが、企業としてのビジネス・オポチュニティだということになります。
また、マテリアリティの分類ですが、社会面での主なリスクと機会は人権です。その視点から、「社会活動」のマテリアリティにある、消費者対策、従業員の人権労働問題、公正な事業慣行などは、本来「企業価値を守るCSR」に入れるべきではないかとも思います。積極的な社会との対話が求められている時代背景を踏まえ、バリューチェーン全体の人権リスクについてはぜひ検討頂きたいですし、今後、「社会活動」のマテリアリティについて再分類してみてはいかがでしょうか。
※1 気候関連財務情報開示
持続可能な発展につながるCSR活動へ進化
日本曹達:
ダイアログを開催して、例えば社会貢献への切り口や、ESG投資の考え方など、これまでとは違うアプローチの仕方に気づかされました。そういう意味も含めて皆様とダイアログの場で対話させて頂けたことで、これまでの活動に新しい視点や考え方を取り入れながら、自社の製品についてあらためて考える機会になりました。
SDGsについても、例えば、当社は農薬分野に関連して、バンコク、インドに事務所があり、ブラジルには現地法人がありますが、SDGsの目標17(パートナーシップで目標を達成しよう)の視点で、現地の企業や業界団体とのコラボレーションでどんなソリューションにつなげていけるかなど、他部門の担当者とともに、パートナーシップの可能性について議論をしています。こういった現場での取組みも、日本曹達グループの中長期の企業価値向上への活動につながっていくのだと思います。
山崎:
今回ダイアログに出席して、細かいところまで丁寧に取り組まれているという印象を持ちました。素晴らしい取組みだと思います。今後は、一つひとつの取組みが中長期の戦略とより一層深くつながっていくプロセスに注目していきたいと思います。
また、その際、一人ひとりの社員の方々の活動にどのように落とし込まれているか、綺麗な教科書で終わっていないだろうか、という点についてはどの企業も苦心されていると思いますが、非常に重要な取組みだと思いますので、活動のより一層の進化に挑戦いただきたいと思います。
関:
昨年のダイアログに参加してから一年経ちますが、非常に真摯な取り組みを継続されていると思います。CSR活動全体の考え方も昨年よりずいぶん整理が進んでいると感じましたし、ステップアップと深耕のPDCAを着実に両輪で実践しておられるのだと思います。
特に「企業価値を高めるCSR」については、議論の内容、活動ともに進歩が見られます。持続可能な社会の発展を見据えた経営を目指しているからこそ、その時々で不足している要素はないかという視点を忘れずに、一歩、二歩とさらにCSR経営を進めていただければと思います。
企業価値を高めるCSR
(2016年12月)
日本曹達の考えるマテリアリティと企業価値を高めるCSR
化学会社として社会にとってのより良い影響をより大きくし、持続可能な社会づくりに役立つ戦略的CSRを推進していくために、企業価値を高めるCSRをテーマに外部有識者の皆様とのステークホルダーダイアログを開催しました。
日本曹達グループは、2016年に特定したCSR重要課題(マテリアリティ)の実践を通じて持続可能な社会づくりに取り組んでいます。マテリアリティの特定プロセスにおいては、マテリアリティ分析とともに、有識者ダイアログによる妥当性評価を行いました。
2017年の取組みとしては、「企業価値を高めるCSR」「企業価値を守る CSR」「社会活動」の 3 領域において、各マテリアリティに沿った KPI を策定し、SDGs との関連領域である「企業価値を高める CSR」をテーマに有識者ダイアログを開催しました。ダイアログでは、既存分野での新たなソリューション創出、化学会社としてのユニークイノベーションなど、日本曹達グループの「企業価値を高める」活動へのアドバイスを頂きました。
策定した KPI については、日本曹達グループ全体の共通目標として、マテリアリティの実現と CSR 活動全体のパフォーマンス向上を目指していきます。また、日本曹達グループとして持続可能な社会づくりへの活動を着実に推進していくため、特定したマテリアリティと KPI による進捗管理を図っていきます。
※ 2016年12月9日に開催されたステークホルダーダイアログでは、日本曹達グループの「企業価値を高める CSR」における 3 つの重点領域、農業分野、環境分野、情報分野に関するマテリアリティについて意見交換を行いました。2017年 4月に 4つ目の重点領域である医療分野を追加しています。
出席者
外部有識者
日本曹達
CSR 推進室長
※出席者の肩書、役職は、2018年12月時点のものです。
※本文中敬称略
アウトサイドインで事業を見直すことで社会課題と事業がつながる
気候変動が農業に与えるダメージは地球上の解決すべき重要課題であり、2016年にモロッコ王国で開催された「第22回国連気候変動枠組条約(COP22)」のテーマである。そのようななか、農業の解決すべき課題への新たなソリューション「スマートアグリカルチャー」の取組みが注目されている。日本曹達グループとして検討してみてはいかがか。農業用水の節約や緑化推進など、農業と関連する社会課題を広範囲に把握し「アウトサイドイン」思考で自社の事業がどう活かせるのか、新たな視点で検討することをお勧めしたい。
トランスフォーメーションの時代だからこそSDGsへの取組みが効果的
化学会社の RC 活動のクオリティの高さは世界に広く知られているが、さらに高い目標を掲げ、SDGs や G4 に取り組む日本曹達グループの姿勢を評価したい。化学分野では、脱二酸化炭素社会に役立つ素材や製品といったソリューションが生まれてくるだろう。SDGs169 のターゲットへのタッチポイントは今以上に見つかるのではないか。化学の力による「トランスフォーメーション」効果を期待している。また、積極的な社会との対話が求められている時代背景を踏まえ、バリューチェーン全体の人権リスクについても検討いただきたい。
赤池 学 氏 ユニバーサルデザイン総合研究所所長/一般社団法人CSV開発機構 理事長/科学技術ジャーナリスト化学メーカーならではのユニークイノベーション&協働への期待
企業価値を高める CSR を推進するプロセスでは、過去の成功や失敗に捉われないユニークイノベーションの可能性を探ってほしい。日本曹達グループは、誠実な事業活動をしているがユニークさが不足している。生産性だけでなく提供するソリューションの付加価値を同時に追求していかれてはどうか。これからは BtoB の企業も BtoC へつながる時代である。化学会社らしいユニークなバリューチェーンを再構築できれば、取組みプロセスそのものが社会性の高いコミュニケーションとなり社会からの期待もさらに高まるだろう。
インパクト思考を持って自社の事業を棚卸することで
価値創造ストーリーが深まる
地球規模の社会課題に対し企業一社で解決できることは限られている。これからは協働を視野に入れた価値創造の時代だと思う。例えば、東南アジア地域に建設される農業プラントなど他社のメガシステムのなかに日本曹達のコアコンピタンスによる事業構想を提案していくなど、他社との協働の可能性を積極的に探ってほしい。バリューチェーンにおける製品の具体的な供給先をベンチマークすることも新たな可能性を探る手法として効果的である。緻密さと大胆さをもって日本曹達の新たな価値創造ストーリーをつくってほしい。
もっと未来へ 日本曹達グループ
企業価値を高める CSR をテーマに、事業を通じた社会貢献について活発な意見交換が行われました。当日の対話内容について、ポイントをご紹介します。
農業分野
農薬による食糧安全保障と持続可能な農業への貢献
- 農薬における世界的食糧・飼料増産
- 生物農薬による植物保護の多様化
- 使用者の安全性向上、環境負荷低減
農薬の大きな役割には地域の環境特性を踏まえた作物の収量増加があるが、この観点から発展途上国地域の飢餓撲滅に貢献できる可能性がある。また、農薬の開発メーカーとして、使用者の安全性向上や環境負荷低減への配慮は、事業を通じた CSRに不可欠な取組みと位置付けている。生物農薬については複合的に事業の可能性と社会的価値を検討している。将来的には、農業だけでなく緑化問題やペット・畜産動物保護などを対象に新たなソリューションを提供していきたい。
世界では企業と生態系保護の関わりを可視化する動きがある。農薬の使用範囲や使用方法を用いたインパクト評価で、生態系保護を試算できるのではないか。生物農薬を使うことで生物多様性を実現する挑戦は、持続可能な農業環境づくりに役立つ。日本曹達の企業価値を高めるユニークイノベーションとして育ててほしい。発展途上国における農薬の啓蒙活動は重要なリスクコミュニケーションであるが、今後は、農業関係者だけでなく市民や次世代の農業を担う学生との対話に広げていくことが期待される。
環境分野
化学(技術力)による健全な資源循環への貢献
- 資源循環製品(ハイクロン、ハイジオン)による環境負荷低減
- PCBの無害化への貢献
水資源の安定供給に貢献するハイクロンは相当量の水処理に対応可能な機能性に優れた製品であり、欧州・中東・アジアなど海外需要が拡大している。
ストックホルム条約で定められた PCB 無害化処理については、国内市場での社会的期待が高い。ゴミ焼却時に発生する飛灰※に含まれる重金属処理ハイジオンについては、法規制の厳格化とともに需要もさらに高まってくると見込まれる。
※ 焼却炉の底などから排出される主灰(焼却灰)に対して、排ガス出口の集塵装置で集めたばいじんなどを飛灰と呼びます。
地球環境保全への貢献として極めて社会的意義が高い技術といえる。各国の環境政策と連動する事業であるため、積極的アプローチをしにくい側面もあると思うが、SDGs では各地域の社会課題に民間企業の力で貢献することが明文化されている。今後は今まで以上に既存の事業でグローバル課題に貢献する機会が出てくるだろう。水の循環という視点では、途上国地域における深刻なトイレ問題に対して、日本曹達の災害対応用トイレ「スケットイレ」技術の適用範囲を世界に広げていく可能性を検討してはどうだろう。
情報分野
高機能な材料の提供によるすべての人・環境に優しい情報機器実現への貢献
- 携帯端末の軽量化や操作性に素材で貢献
- ユニバーサルデザインを支える素材を提供
これまでに培った高いポリマー技術を活かしてハイエンドな携帯端末約 4 億台にポリマー素材を供給している。IoT(Internet of Things. モノのインターネット)時代を迎え、軽さや操作性に優れた携帯端末は人々の暮らしに欠かせない情報機器といえる。
障害のある方、シニア世代、キッズ向けなど、あらゆる人たちへの使いやすさを実現するために、高付加価値素材の供給で貢献していきたい。
携帯(端末)台数のインパクトだけでなく、日本曹達グループの技術が使用する人たちにどのような価値を提供できたのかという具体的な効果について検討する機会を持ってほしい。既存の技術にステークホルダーの視点を取り入れることで事業の社会性をより際立たせるソリューションに深化していくのではないか。また、化学素材とユニバーサルデザインの関わりを次世代の子どもたちに伝える仕掛けも検討してみてはどうだろう。次世代の新たなソリューション創発につながる社会的価値の高い取組みといえるだろう。
今回のダイアログを終えて…
外から見える風景と中から見る風景
池田 正人 執行役員/CSR推進室長
日本曹達の中から自分たちの製品や技術を通してお客様やステークホルダーの皆様を拝見していますと気づかないことが、有識者の皆様には見えていることに今回気づかされました。「外からの目線で見直すことで社会課題と事業がつながる」「トランスフォーメーションの時代だからこそ SDGs への取組みが効果的」「化学メーカーならではのユニークイノベーション&協働への期待」「インパクト思考を持って自社の事業を棚卸することで価値創造ストーリーが深まる」といった視点は、今後の事業を通じた社会貢献を推進する上で大きなヒントになりました。
例えば、中から見ていると気づかなかった次のようなことに気づかせて頂きました。農薬の使用範囲や使用方法を用いたインパクト評価による生態系の試算。「スケットイレ」の国際貢献。化学素材とユニバーサルデザインの関わりを次世代の子どもたちに伝える仕掛け。
今後の「企業価値を高める CSR」の活動に活かしていきたいと思います。
ステークホルダーダイアログの位置付け
日本曹達グループとして取り組むべきマテリアリティの特定プロセスを大きく 4 つのステップで推進してきました。
- Step1課題を抽出・評価優先順位付け
- Step2有識者ダイアログによる検証・特定
- Step3日本曹達グループ経営層への報告・承認
- Step4PDCA の実行
2015 年に開催した前回ダイアログは Step2 の位置付けでした。今回は、2 回目のステークホルダーダイアログとして、Step4 の実行段階で 1 年間取り組んできたマテリアリティの取組み方や KPI についてアドバイスを頂きました。
日本曹達グループの
マテリアリティの特定にあたって
(2015年11月)
日本曹達グループとして
取り組むべきマテリアリティの特定にあたり、
有識者の皆様とのステークホルダーダイアログを開催しました。
出席者
外部有識者
オブザーバー
日本曹達
CSR 推進室長
※出席者の肩書、役職は、2018年12月時点のものです。
※本文中敬称略
日本曹達グループのCSR活動に関して、社外有識者の皆様から多くの意見を頂きました
日本曹達グループのマテリアリティの特定にあたり、農業・環境・情報の各分野における商品やサービスと社会的課題との関わりについて、過去にいただいた様々なステークホルダーの皆様からのご意見を参考にしながら、経営マネジメントを含めた活発な議論を重ねてまいりました。一定の方向性がまとまった2015年11月、社外の有識者の皆様との対話を通して、日本曹達グループの目指す姿と特定するマテリアリティへの客観性を担保することを目的に、ステークホルダーダイアログを開催しました。
当日は、社内担当者による説明を踏まえ、課題抽出と評価優先順位付け、具体的な3分野(農業、環境、情報)におけるマテリアリティの特定プロセスを参加者の皆様と共有しました。その後、社外有識者の皆様から、抽出したマテリアリティと社会的課題との関連性、日本曹達グループの事業が社会課題へ与えるインパクトと評価方法、日本曹達グループの成長とマテリアリティの実行に対するアウトカムの検討と期待だけでなく、10年後、20年後を踏まえた日本曹達グループの可能性についてのご意見やご指摘もいただきました。
日本曹達グループとして、今年度より取り組む、企業価値を高めるCSR(マテリアリティ特定)、企業価値を守るCSRの社会的意義についても、今回のステークホルダーダイアログの中において活発な議論が展開されました。
「守り」の中にある「攻め」の要素でも社会貢献を
自社のマテリアリティについて考える一方、社会への影響についても深く検討されたことがよく伝わってきました。G4の枠組みを軸に活動を進めるにあたり、非財務情報の背後にあるストーリーを、ステークホルダーに伝えることが重要です。今後議論を進められるKPIについては、製品レベルの各論まで入り込み過ぎずに、まずは、定性情報がミスリードなく伝わる状態を目指してはいかがでしょうか。
また、企業価値を守るCSRと企業価値を高めるCSRの位置づけは非常に良い考え方ですが、ダウンサイドリスク管理に主眼を置くRC活動の中にも「攻め」の要素はあり、これも抽出していければ、貴社の貢献をより多角的に示すことが出来ると思います。
農業分野については、中長期的な課題として避けて通れない、人口増加、病害虫リスク、気候変動リスク等のキーワードを貴社としてどう捉え、マテリアリティの特定プロセスを経てどのようなメッセージが出されていくのか、という点に注目しています。
社会課題を解決する事業の創出を期待
これまでのリスクコミュニケーションからG4に舵をきられたことで、社会的課題への対応について一歩進んだコミュニケーションが必要です。第一フェーズとして、社会の役に立つ製品をアピールする段階におられると理解していますが、今回のマテリアリティの特定をきっかけに、長期的な視点で社会に役立つ事業が創出される流れが、ステークホルダーと共有されていくことを期待します。
情報については、製品ライフサイクルの切り口やシニア市場への貢献等、社会的命題に対する貴社の対応をロジカルに表現する視点を取り入れてはいかがでしょうか。
また、現時点で目指せる姿と未来を見据えた成長が混在して伝わっている印象を持ったのですが、今後、日本曹達の強みと社会問題を掛け合わせた新たな事業の可能性についてもぜひ議論を進めていただきたいと思います。長期的な成長へのストーリーを描いていくことで、必然的に次の活動フェーズへ進んでいけると思います。
今回のダイアログを終えて…
社会と企業の持続的な発展に向けて
池田 正人 執行役員/CSR推進室長
マテリアリティの特定プロセスにおける各部門横断的な議論の中で、社会にプラスの影響を与えるという「企業価値を高めるCSR」の観点から、既存の事業と今後の可能性について棚卸しができました。これから日本曹達グループ全体でマテリアリティを展開していくにあたり、定期的に、自社の製品やサービス、企業活動を社会に提供することの価値について、ステークホルダーの皆様との対話の機会を設けてまいりたいと思います。SDGsへの対応はもちろん、各地域の社会課題にも日本曹達グループの企業活動を通じてお役に立つことができれば、社会と企業の持続的な発展につながっていくと考えております。
次のステップとしましては、10年後、20年後を見据えた目指す姿の実現へコミットしていくため、KPIの設定に関する議論も進めてまいります。