社長メッセージ

次の100年を見据え、強くしなやかに成長を遂げ持続可能な社会の実現と発展に尽力していきます。
代表取締役社長 阿賀 英司長期ビジョン「Stage Ⅰ」の進捗と成果
2021年4月に、社長に就任してから約1年が経過しました。当社を取り巻く事業環境は、新型コロナウイルス感染症の長期化に加え、ロシアによるウクライナ侵攻や米中の経済対立による影響で、先行き不透明な状況が続いています。このような非常事態ではありましたが、日本曹達グループ長期ビジョン「かがくで、かがやく。2030」(2020年度~2029年度)および中期経営計画「かがくで、かがやく。Stage Ⅰ」(2020年度~2022年度)の達成を目指し、企業価値の向上に向けた諸施策を全力で実行してきました。先が見通せない中、全社一丸となって危機を乗り越える覚悟で立ち向かった結果、2021年度(2022年3月期)の売上高は1,525億円(前期比9.5%増)、営業利益は119億円(前期比19.5%増)、経常利益165億円(前期比29.6%増)、当期純利益127億円(前期比72.3%増)となりました。外部要因として円安の追い風もあり、組織が持つ実力以上の結果だったかもしれませんが、従業員に繰り返し、長期ビジョンと中期経営計画の意義や目的を伝えてきたことも一助であったと捉えています。
企業価値向上に向けた基盤固めを推進
当社は、「新たな価値を化学の力で創造し、『社会への貢献』を通じ『企業価値の向上』を実現する。」というグループミッションを掲げていますが、その実現のために、3つの中期経営計画(Stage ⅠーⅢ)からなるロードマップを策定し、段階的に取り組みを推進しています。中期経営計画「Stage Ⅰ」は、10年間の長期ビジョン達成のためのファーストステップと位置づけており、「企業価値の向上に向けた基盤固め」を進めています。「Stage Ⅰ」である2020年度~2022年度の3ヵ年は、①不採算事業の整理、②農薬・医薬品添加剤を中心に海外事業を拡大、③中核技術の育成・確立の3つに集中して取り組んでいます。
不採算事業の整理としては、1929年以来操業を続けてきた二本木工場におけるカセイカリ電解関連事業を停止し、カセイカリ、炭酸カリやその他の関連製品を在庫限りで販売終了としました。構造改革の実施について、現場で働く従業員は複雑な気持ちだったであろうと思いますし、私としても苦渋の決断でした。幸いにも、医薬品添加剤「NISSO HPC」の増産設備、新規殺菌剤「ミギワ」の量産プラントの新設などにより、ポートフォリオの入れ替えは軌道に乗っています。時々、投資家の方から寄せられる質問として、事業規模と比較して多くのビジネスを展開し、コングロマリット・ディスカウントに陥っているのではないかというご指摘をいただくことがあります。しかしながら、収益性が高く競争力のある成長事業を複数展開することは、不確実性の時代においては企業価値の向上に大いに資すると考えており、引き続き不採算事業の整理を進めるとともに、高付加価値事業の拡大に向けてリソースを投入していく考えです。
農薬・医薬品添加剤を中心とした海外事業の取り組みでは、農薬については、欧州における競合品の登録失効や使用制限などにより、主力殺虫剤「モスピラン」の販売が伸長しています。「モスピラン」は環境に与える影響が極めて少ないという特色があり、

EUにおける再登録の評価の結果、2033年まで登録が延長されており、今後しばらくは優位性が失われないとみています。また、海外事業のさらなる拡大を目的として、インドの農薬製造・販売会社ブハラット・セルティス・アグリサイエンス社の株式を取得しました。当社既存農薬の販売を推進しながら、数年後をめどに新農薬の販売を開始する予定です。近年上市した新規農薬3剤、殺菌剤「ピシロック」、殺ダニ剤「ダニオーテ」、殺菌剤「ミギワ」の普及・拡販と海外展開にも注力しており、今後の成長を期待しています。医薬品添加剤については、「NISSO HPC」のグローバル化を図っており、想定以上の速さで進捗しています。「NISSO HPC」は2021年7月に増産設備の工事が完了したものの、旺盛な需要により輸出向けを中心に販売が想定以上に拡大しており、さらなる増産体制の構築を検討しています。また、周辺事業の拡大策として、フマル酸ステアリルナトリウム事業を買収しました。本製品は医薬品の錠剤製造における滑沢剤として使用されていますが、「NISSO HPC」と併用することで成型が困難な有効成分の錠剤化が可能になるなど、両製品のシナジーによって、今後さまざまな医薬品錠剤への採用が期待できます。
中核技術の育成・確立に関しては、マテリアルズ・インフォマティクス※などデータサイエンスの取り組み推進に向け、最新技術の習得と活用、推進を担う人材育成および研究開発のデジタル化に向けて戦略を実行中です。また、新しい取り組みでは、農林水産省が推進する「みどりの食料システム戦略」に沿った低リスク農薬の探索、生物農薬やバイオスティミュラントの開発、ドローン散布への対応など最先端の分野にもチャレンジしています。
これからも当社グループの価値創造のマテリアリティであるアグリカルチャー・ヘルスケア・環境・ICTの4つの分野で新たな価値を創出し、社会課題の解決に寄与するとともに、企業価値の向上につなげていきます。
長期ビジョンの最終年度となる2029年度(2030年3月期)の経営目標としては、ROS(売上高営業利益率)10%以上、ROA(総資産営業利益率)7%以上、ROE(自己資本当期純利益率)8%以上を掲げています。2021年度(2022年3月期)の業績は、ROE8.4%となり、長期ビジョンのKPIである8%以上を達成しましたが、一過性の特別利益(関係会社株式交換益)を除いたROEは7.2%となります。ROSは7.8%、ROAは5.0%と、目標達成に向けて奮励しています。株主還元については、1株当たり年間配当180円(配当性向39.6%)を実施しました。自己株式の取得についても、2020年に50億円、2021年に20億円を実施しており、今後も配当を補完する株主還元策として機動的に実施していく方針です。
事業別の概況については、化学品事業では化成品、医薬品・工業用殺菌剤、工業薬品、機能材料の販売が増加しました。化成品は、感熱紙用顕色剤や特殊イソシアネートが伸長したことにより、増収となりました。医薬品・工業用殺菌剤は、「NISSOHPC」と医薬品原体の販売が伸長しました。工業薬品は、構造改革の実施に伴いカセイカリが減少したものの、カセイソーダの増加や原材料価格の高騰に伴う塩化燐の販売価格の上昇などにより増収となり、機能材料は、半導体フォトレジスト材料「VPポリマー」や樹脂添加剤「NISSO-PB」が増加したことにより増収となりました。農業化学品事業では、除草剤や殺菌剤の輸出向けが減少した一方、殺虫剤・殺ダニ剤の輸出向けが増加したほか、新規自社開発農薬の販売が収益に寄与しました。商社事業では、

各種有機・無機薬品や非鉄金属、ウレタン原料などの増加により、増収増益となりました。運輸倉庫事業および建設事業もそれぞれ堅調に推移しました。
2022年度(2023年3月期)の業績予想は、売上高1,620億円、営業利益123億円、経常利益165億円、当期純利益110億円を見込んでおり、配当金については当期と同額の1株当たり年間180円を予定しています。今後も、収益の拡大に伴い、適切な株主還元を実施していく予定です。
- ※統計分析などを活用したインフォマティクス(情報学)の手法により、大量のデータから新たな素材を探索する取り組み
将来のありたい姿に向けた成長戦略および展望
当社は2020年に創立100周年を迎えましたが、次の100年に向けて、長期ビジョンの達成だけではなく、より先を見据える必要があります。私たちは、長期ビジョンが終了する2030年3月期以降の持続的な発展・成長のため、2021年から研究戦略をブラッシュアップし続けています。サステナブルな社会の実現に貢献する新規事業のターゲットとして、今後の研究ドメインに食料(フードテック)、医療(人・動物のヘルスケア)、先端材料(次世代ICT材料・カーボンニュートラル)の3つの領域を設定し、価値創造を図ります。また、技術マーケティング戦略を強化するために新しく従業員研修を開始しており、技術マーケティング能力を底上げし、従業員自らが自発的にテーマを提案できる仕組みづくりに取り組んでいます。これらの一環として、2022年4月に、新規事業開発推進部を新設しました。コンサルタントなど第三者の客観的な視点を取り入れながら研究戦略を強化し、新たなビジネスの創出につなげていきます。
新規事業の創出において、農業化学品の分野は社内の開発でも支障はないのですが、化学品の分野では外部との積極的なコラボレーションが必要と考えています。当社の中核技術は今後も大切にしていきますが、M&Aや産学連携など外部の風を取り入れなければ、さらなる成長はありません。過去の実績にこだわらず、自前主義から脱却し、さまざまなオープンイノベーションを推進します。また、構造改革の実施により縮減した事業を補うためにも、M&Aの積極的な展開を視野に入れています。M&Aについては、周辺事業を拡大するにはシナジーを考慮すると日本企業のほうがよいのですが、私自身、当社が買収した海外企業の初の駐在員として現地に赴任した経験を活かし、国内に限らず幅広く検討していきたいと思っています。また、メリット・デメリットも踏まえながら、運営面や文化面・カルチャーの違いも学びに変えていきたいと考えています。
加えて、企業価値を高める事業戦略として、デジタルトランスフォーメーション(DX)戦略にも着手しています。2022年5月に二本木工場内に生産技術研究棟を新設し、AI(人工知能)やCAE(Computer Aided Engineering)の最新設備を導入しました。コンピューターシミュレーションを駆使した最適生産モデルの把握を進めるとともに、技術やノウハウを蓄積して当社の生産拠点に展開していく考えです。そのほか、マテリアルズ・インフォマティクスなどデータサイエンスの取り組みに向け、最新技術の習得と活用、デジタル化推進を担う人材育成や、研究開発のデジタル化に向けても取り組んでいきます。

二本木工場 生産技術研究所 新研究棟
社会への貢献を実現するサステナブルな経営基盤の構築
当社は社会価値の創出と持続可能な経営を実現するために、人的資本をより高めていきたいと考えています。私が従業員に求めているのは“自ら考えて行動してほしい”ということです。個性的でもいい、「去年やったから、今年もやる」といったように機械的に行うのではなく、従業員一人ひとりが主体的に考えてほしいのです。現代の人事制度や採用の考え方は、私が歩んできた価値観とは大きく異なります。例えば、国内営業職で転勤を繰り返して単身赴任が当たり前というやり方は、今の時代、誰もついてこないでしょう。最近では、アスリートや、当社にはないスキルと経験を持ったシニア層など、異なったバックグラウンドを持つ人材の採用にもチャレンジしています。ダイバーシティを重視し、多様な人材一人ひとりが最大限の力を発揮しながら業務に取り組むことができる環境・組織づくりこそが、新たなイノベーション創出につながると考えます。
また、従業員の健康維持と増進を重要な経営課題として注力してきた結果として、「健康経営優良法人(ホワイト500)」に5年連続で認定されました。2022年4月には、従業員のさらなる健康意識の向上や定着を目指し、健康経営推進課を設置しています。さらに、本社オフィスをフリーアドレス化するとともにオフィス内にフリースペースを設けることで、対話を深め、それぞれの価値観の共有を図るなどの取り組みも始まっています。将来は副業を含めた多様な働き方が一般的になることが予想されますし、今後は在宅勤務やエリア限定採用などを含めて、幅広い採用方法を取り入れたいと考えています。多様な働き方を支える人事制度を整備することにより、採用が難しいIT・DX領域の人材を受け入れられるのではないかと期待しています。
経営基盤の強化に向けて、ガバナンスの高度化にも取り組んでいます。特に、取締役会では社外取締役を含めオープンな議論ができるように、取締役会議長として力を入れています。十分な情報の共有を図るために、経営会議には社外取締役や常勤の監査等委員に参加いただき、その場でもご意見をいただいています。外部機関による取締役会の実効性評価によって、社外取締役の都合があわず経営会議への参加ができなかったために情報の共有ができなかった事例があることがわかっており、経営会議の録画を視聴いただくといったような工夫もしています。
当社は化学メーカーとして、循環型社会の実現に向けた取り組みは重要な課題であると認識しています。当社は一般社団法人日本経済団体連合会(経団連)が自主的に取り組んでいる「カーボンニュートラル行動計画」に参加し、CO2排出量の削減目標達成に向けて、エネルギーの効率化や省エネルギー機器の導入・節電化対策などを実施しています。また、物流改善プロジェクトを立ち上げ、事業場内の物流の見直しや、動線の短縮化によるエネルギー使用量の削減にも取り組んでいます。さらに、環境省の「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン」などを参考に、自社の活動による温室効果ガス排出と自社の活動範囲外での間接的排出について算出し、バリューチェーン全体での排出削減に取り組んでいます。
研究開発分野では、当社の独自技術を活用し、立教大学との産学連携プロジェクトで、選択的に二酸化炭素を吸着する新規多孔性物質(MOF)を開発しました。新たに開発したMOFは水素分子の貯蔵も可能であることから、安全性が高い水素貯蔵ボンベへの応用展開を目指しています。これは、燃料電池自動車(FCV)の普及・促進につながる可能性を秘めています。また、グループ会社の一つである日曹金属化学(株)では、リサイクル事業を通じて循環型社会の形成に寄与しています。レスポンシブル・ケアを土台に成長してきた当社だからこそ、社会への貢献度の高い事業を展開していく思いは今後も変わりません。
成長を続け、社会から広く信頼される企業を目指して
当社は株主、取引先、従業員および地域社会などあらゆるステークホルダーからの期待と信頼に応え、環境に配慮した事業活動を行うことを目指してきました。
この先も社会環境の激変が予想されますが、持続可能な社会の実現のために、これまで積み重ねてきた「社会への貢献」という使命を変わらぬ価値観としながら、企業価値の向上を実現していきます。そのためにも、社会に貢献する優れた製品を提供するとともに、事業改革を実行し、高付加価値事業の拡大を図ることが日本曹達の使命であり、自由闊達な組織風土を育みながら、従業員が変革に向けて挑戦できるカルチャーを構築することは、私の経営者としての重要な役目の一つです。次の100年を見据え、社会への貢献を標榜する私たちが歩みを止めることはありません。これからも、社会になくてはならない企業として存続するための取り組みを一つひとつ具体化しながら、着実に前進していきます。
今後の日本曹達グループのさらなる成長にご期待いただき、引き続きご支援くださいますようお願い申し上げます。
代表取締役社長
